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 国外事業者である俳優、音楽家その他の芸能人 又は職業運動家(以下「外国人タレント等」とい います。)が来日して行う役務の提供(例えば、

コンサートや舞台への出演、野球・サッカー・ゴ ルフなどのスポーツイベント等への出場など)は、

日本国内で役務の提供が行われていることから、

これまでも国内取引として消費税の課税対象とさ れていました。このため、毎年、日本で興行等を 行っており、その基準期間における課税売上高が 1,000万円を超えることとなる外国人タレント等 にあっては、消費税の納税義務者としての対応が 求められていました。

 しかし、こうした外国人タレント等は、一般的 に、短期間で帰国することから、適切な申告納税 を求めることには自ずと限界があります。

 一方で、こうした外国人タレント等に報酬を支 払う(外国人タレント等から役務の提供を受け る)日本の興行主等においては、外国人タレント 等が消費税の申告納税を行っているか否かにかか わらず、原則として、仕入税額控除制度の適用を 受けていたと考えられます。

 その結果、外国人タレント等による納税なき、

日本の興業主等による仕入税額控除制度の適用と いう問題が発生しており、昨年、会計検査院から も同様の指摘がなされていました。

2  改正前の制度の概要

 消費税の課税対象は、「国内において事業者が 行った資産の譲渡等」(旧消法 4 ①)とされてお り、納税義務者については、「事業者は、国内に

おいて行った課税資産の譲渡等につき、この法律 により、消費税を納める義務がある。」(旧消法 5

①)とされています。

 また、資産の譲渡等が国内取引に該当するか否 かの内外判定基準については、消費税法第 4 条第 3 項に規定が設けられています。具体的には、

「役務の提供」については、当該役務の提供が行 われた場所によって判定することを原則としつつ、

政令で定める一定のものについては政令で定める 場所によって判定することとされています(旧消 法 4 ③二、旧消令 6 ②)(詳細は、前述の「二  国境を越えた役務の提供に係る課税の見直し」を 参照ください。)。

 したがって、外国人タレント等が日本国内で行 った興行等については、国内取引として消費税の 課税対象とされています。

3  改正の内容

 国内において外国人タレント等が行う役務の提 供のうち一定のものを「特定役務の提供」と位置 付け、当該特定役務の提供を受ける行為(「特定 課税仕入れ」といいます。)に対して消費税の申 告納税義務を課す、いわゆるリバースチャージ方 式が導入されました。具体的には、「特定役務の 提供」を、「事業者向け電気通信利用役務の提 供」とともに「特定資産の譲渡等」と定義し、当 該特定資産の譲渡等を受ける事業者、すなわち、

「特定課税仕入れ」を行う事業者に対して、消費 税の申告納税義務が課されることとなります(消 法 2 ①八の二・八の四・八の五、 4 ①、 5 ①)。

 したがって、特定役務の提供を受けている事業 者にあっては、外国人タレント等に支払う報酬に

つき消費税相当分を上乗せする必要がなくなりま すが、その分、自らがリバースチャージによる申 告納税義務を負うことになるため、今後、契約関 係の見直しが必要になってくると考えられます。

 なお、リバースチャージによる納税義務が発生 する事業者においては、事業者向け電気通信利用 役務の提供を受ける場合と同様、課税売上割合が 95%以上の課税期間においては、当分の間、特定 課税仕入れはなかったものとして消費税法の規定 を適用することとする経過措置が設けられていま す(改正法附則42)。

(注) 簡易課税制度の適用を受ける課税期間につ いても同様の経過措置が設けられています(改 正法附則44②)。

⑴ 特定役務の提供の範囲について

 特定役務の提供とは、「資産の譲渡等のうち、

国外事業者が行う演劇その他の政令で定める役 務の提供(電気通信利用役務の提供に該当する ものを除く。)をいう。」とされており(消法 2

①八の五)、具体的な範囲については、政令で 次のように規定されています。

(参考) 消費税法施行令

(特定役務の提供の範囲)

第 2 条の 2  法第 2 条第 1 項第 8 号の 5 に規 定する政令で定める役務の提供は、映画若 しくは演劇の俳優、音楽家その他の芸能人 又は職業運動家の役務の提供を主たる内容 とする事業として行う役務の提供のうち、

国外事業者が他の事業者に対して行う役務 の提供(当該国外事業者が不特定かつ多数 の者に対して行う役務の提供を除く。)とす る。

 消費税法施行令第 2 条の 2 に規定する「事 業」の範囲(「映画若しくは演劇の俳優、音楽 家その他の芸能人又は職業運動家の役務の提供 を主たる内容とする事業」と規定)は、所得税 法第161条第 2 号(国内源泉所得)の規定に基 づき「国内において人的役務の提供を主たる内 容とする事業」を定めた所得税法施行令第282

条第 1 号の規定振りと同様(同法令179一も同 様)であることから、その範囲に異なるところ はありません。したがって、解釈に当たっては、

所得税法基本通達161- 8 から161-11を参照く ださい。

 なお、所得税法第161条第 2 号の適用を受け る対価(源泉徴収の対象)であっても、その対 象となる取引が消費税の課税対象外であれば、

特定役務の提供に該当しないことは言うまでも ありません。

(注 1 ) 「芸能人等の役務の提供を主たる内容とす る事業」に該当する場合であっても、役務 の提供に当たるのか、資産の譲渡又は貸付 け(例:著作隣接権の譲渡・貸付け)に当 たるのか、といった消費税法上の判断は、

別途行う必要があります。

(注 2 ) 所得税法第161条第 2 号の規定は、所得税 法等の一部を改正する法律(平成26年法律 第10号)により、平成28年 4 月 1 日から、

所得税法第161条第 1 項第 6 号に改正されま す。

 他方で、所得税法施行令の規定を直接引用せ ず、上記(消令 2 の 2 )のように消費税法令上 の概念として規定し、かつ、波線部分が加えら れているため、以下のような違いがあることに も留意が必要です。

① 非居住者が自己の役務を提供する場合を含 みます。

 所得税法上、国内源泉所得の対象となる

「人的役務の提供を主たる内容とする事業」

とは、非居住者が営む自己以外の者の人的役 務の提供を主たる内容とする事業、又は外国 法人が営む人的役務の提供を主たる内容とす る事業のうち、所得税法施行令第282条各号 に掲げるものをいうとされています。

 しかし、消費税法施行令第 2 条の 2 (特定 役務の提供の範囲)では、所得税法施行令第 282条第 1 号の規定をそのまま引用するので はなく、「外国人タレント等の役務の提供を 主たる内容とする事業として行う役務の提

供」と規定することによって、外国人タレン ト等自身が行う役務の提供もその対象として います。

(注) 外国人タレント等自身が行う役務の提供 に係る報酬については、所得税法第161条第 8 号に掲げる給与、報酬又は年金に該当す ることとなります。

② 他の事業者に対して行う役務の提供の意義  本制度は、外国人タレント等が日本国内に おいて観客等から直接対価を得て行う興行等 を対象とするものではなく、他の興行主等の 事業者に対して行う役務提供をその対象とし ています。このため、その対象取引について は、「他の事業者に対して行う役務の提供」

に限定されています。

 こうした制度とされている理由は、消費者

(事業者以外の者)にリバースチャージによ る申告納税義務を課すことが現実的ではない ためです。

③ 「不特定かつ多数の者に対して行う役務の 提供を除く」の意義

 特定役務の提供の定義では、外国人タレン ト等が国内で行う一定の役務の提供のうち、

“事業者に対して行う役務の提供”に限定し つつも、“不特定かつ多数の者に対して行う 役務の提供”を除いています。

 上記②で述べたとおり、本制度は、外国人 タレント等が日本国内で直接行う興行等を対 象としていません。しかし、外国人タレント 等が直接興行を行うケースを考えると、その 観客(チケット購入者)の中には、事業者が 事業として購入したチケット等(交際費、広 告宣伝費、福利厚生費などに該当するチケッ ト購入)による観客も少なからず存在すると 考えられますが、役務の提供を行う外国人タ レント等からは認識することができませんの でこれをリバースチャージの対象とするのは 現実的ではありません。

 そこで、「不特定かつ多数の者に対して行 う役務の提供を除く。」と規定することによ

って、そうした役務の提供(外国人タレント 等からは、役務の提供を受ける者に事業者が 含まれていることを認識できない取引)はリ バースチャージの対象にならないことを明ら かにしています(こうした取引については、

興行等を行った外国人タレント等(課税事業 者に限ります。)に申告納税義務が課される ことになります。)。

 なお、外国人タレント等が日本国内で直接 興行等を行う場合であっても、国内の事業者 と直接契約を行い、観客席の一部をその事業 者の招待客等に利用させるようなケースにお けるその部分については、不特定かつ多数の 者に対して行う役務の提供には該当しません。

⑵ 経過措置について

 外国人タレント等が行う役務の提供に係るリ バースチャージの仕組みは、事業者向け電気通 信利用役務の提供に係るリバースチャージと同 様です。このため、本制度の施行日(平成28年 4 月 1 日)前後に行われる取引に対する適用関 係については、電気通信利用役務の提供に係る 経過措置を読み替えて準用することとされてい ます(改正法附則48②)。

 具体的には、次に掲げる経過措置について、

それぞれ必要な読替えを行った上で準用するこ ととされています。

・ 改正法附則第36条第 2 項(施行日後に開始 する課税期間に係る事業者免税点制度の適 用)

・ 改正法附則第37条第 1 項、第 2 項及び第 3 項(相続等があった場合の事業者免税点制度 の適用)

・ 改正法附則第41条(仕入対価の返還等を受 けた場合の経過措置)

・ 改正法附則第45条(売上対価の返還等をし た場合の経過措置)

・ 改正法附則第46条(貸倒れがあった場合の 経過措置)

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